土地家屋調査士:寺岡 孝幸(てらおか たかゆき)
資格:土地家屋調査士(とちかおくちょうさし)、行政書士。
取扱い分野:土地の境界確定や不動産の表示登記全般。
経歴:開業以来21年間、土地の境界確定など登記関係業務を行っています。
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分筆できない土地というのは、次の3つのいずれかに該当する土地です。
- 持分過半数の共有者の分筆同意が得られない土地
- 分筆後の土地の面積が、0.01㎡未満になる土地
- 隣地所有者の協力が得られない土地
このように、初めから分筆できない土地があるわけではなく、
分筆しようとする過程で、
分筆できない土地になってしまうことがあるわけです。
ただ、実際に土地の分筆ができないと困る、
将来的に土地の分筆が必要になるかもしれない、
という人も多いのではないでしょうか?
そこでこの記事では、分筆できない土地について、
それぞれの対処法も合わせて、
土地の分筆登記申請業務を行っている土地家屋調査士が解説致します。
この記事を閲覧する事で、分筆できない土地がどんな土地で、
分筆できない土地にならないための事前事後の対処法がわかります。
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記事を読みたい方は、このまま下に読み進めて下さい。
分筆できない土地
分筆できない土地というのは、3つあり、
それぞれどんな土地なのかを、順番に解説いたします。
1.持分過半数の共有者の分筆同意が得られない土地
持分過半数の共有者の分筆同意が得られない土地は、
分筆することができません。
なぜなら、2023年4月1日に、改正民法が施行されたことで、
現在、持分の過半数の共有者が、
分筆登記の申請人になる必要があるからです。
以前までは、必ず共有者全員で申請する必要がありましたが、
持分の過半数の共有者の申請であれば、
分筆登記ができるように変わったということです。
そのため、下図1の登記記録のように、
所有者1名のみの単有の場合は、
ここで言う持分の過半数うんぬんは、関係のない話となります。
逆に、下図2の登記記録のように、土地が共有の場合は、
共有者全員の住所、氏名、持分が記載されています。
もし、上図2のような共有の土地を分筆するためには、
持分の過半数の共有者が、
土地の分筆登記の申請人になる必要があるということです。
たとえば、下図3のように、Aさん(持分3分の1)、
Bさん(持分3分の1)、
Cさん(持分3分の1)の3名の共有土地があったとします。
この場合、3名の内、2名以上の分筆同意が必要となり、
2名以上が分筆登記の申請人になる必要があるのです。
ここで1つ疑問になるのが、下図4のように、
AさんとBさんの2名の共有で、どちらも持分2分の1の場合に、
Aさんのみ、Bさんのみから分筆できるかどうかです。
上図4のような共有の土地を分筆するには、
持分の過半数の共有者が申請人になる必要があり、
持分の過半数とは、半数を超えていなければなりません。
そのため、Aさん(持分2分の1)、Bさん(持分2分の1)の場合、
どちらか1名の持分だけでは、過半数にならないため、
AさんとBさんの2名が、分筆登記の申請人になる必要があるのです。
また、下図5のように、Aさん(持分10分の7)、
Bさん(持分10分の1)、
Cさん(持分10分の1)、
Dさん(持分10分の1)のような4名の共有土地があったとします。
この場合、持分の過半数に達するAさんのみが、
申請人になることで、分筆が可能ということです。
逆に、共有者4名の内、Bさん、Cさん、Dさんの3名だけでは、
人数は過半数であっても、持分の過半数には達していないため、
分筆できないということになります。
ただ、分筆登記の申請人にならなかった共有者には、
分筆登記完了後に、その旨の通知がされます。
そのため、後々の共有者間でのトラブル防止のことを考えれば、
できるだけ、共有者全員で分筆登記を申請することが望ましいと言えるのです。
また、共有者の内で、亡くなっている人がいた場合、
その相続人を戸籍謄本などで特定し、遺産分割協議書などで、
各相続人の持分もわかるようにする必要があります。
そして、相続人の持分と共有者の持分を合わせて、
持分の過半数の人が申請人になることで、
分筆登記が可能になるということです。
2.分筆後の土地の面積が0.01㎡未満になる土地
土地の登記面積は、0.01㎡以上で記録するため、
下図6のように、分筆後の土地が、
0.01㎡未満になるような分筆はできません。
たとえば、分筆後の面積が0.01㎡の場合、
下図7のような登記記録となります。
しかし、分筆後の面積が0.01㎡未満の場合、
小数第三位以下は表示されないため、
登記できないからです。
3.隣地所有者の協力が得られない土地
土地の分筆登記を行うためには、境界の確認など、
基本的に、隣地所有者の協力が必要になります。
もし、隣地所有者の協力が得られない場合には、
土地の分筆が難しくなるのです。
では、隣地所有者の協力が得られないというのは、
具体的にどんな場合なのかですが、
境界の確認で言えば、次のような場合のことです。
- 何らかの理由で隣地所有者と連絡が取れない。
- 隣地所有者が境界立会い自体を拒んでいる。
このような場合、そのままでは、
分筆登記ができないことになります。
また、隣地所有者と境界の確認はできても、
次のような理由で、
隣地所有者の協力を得られない場合もあります。
- 隣地所有者と境界点又は境界線について合意できない。
- 隣地所有者が、境界確認書などへの署名・押印を拒んでいる。
このような場合も、そのままでは、
分筆登記が難しくなります。
つまり、土地を分筆するためには、
基本的に、隣地所有者に境界の確認をしていただき、
その結果に基づく測量図面付きの境界確認書などに、
署名・押印をしていただく必要があるのです。
なお、土地の分筆とは何か、分筆登記とは何かについては、
「土地の分筆とは?分筆登記とは?分筆費用はいくら?」で、
くわしく解説しています。
また、境界確認書とは具体的にどんな書類なのかについては、
「境界確認書とは?土地境界確認書に署名すべき?」をご確認下さい。
境界立会いとは具体的に何をすることなのかについては、
「境界立会とは?土地の境界立会には行くべき?」で、
くわしく解説しています。
分筆できない土地の3つの対処法
ここからは、分筆できない土地の対処法について、
順番に解説いたします。
1.持分過半数の共有者の分筆同意が得られない土地の対処法
まずは、持分の過半数に達するように、
共有者1人1人と話し合いをすることです。
そのためには、日頃から、
話せる関係を築いておくことが大事になります。
どうしても、持分の過半数の共有者の同意が得られない場合や、
無理な場合には、裁判所で共有物分割訴訟を起こして、
確定判決を得るか、和解する方法があります。
2.分筆後の土地の面積が0.01㎡未満になる土地の対処法
分筆後の土地の面積が0.01㎡未満になる場合、
土地の分筆登記はできません。
分筆後の土地の面積が0.01㎡以上になるように、
分筆線の入れ方を変えるなどの方法が考えられます。
3.隣地所有者の協力が得られない土地の対処法
まず、境界の確認を行うのに、何らかの理由で、
隣地所有者と連絡が取れない場合の、対処法についてです。
隣地所有者の住所は、
下図8のような土地の登記記録を取得して、
権利部(甲区)を見るとわかります。
しかし、住所を変更している場合や、
すでに亡くなっている場合もあります。
その場合、土地家屋調査士であれば、
業務上必要な場合に限り、登記記録の住所などを頼りに、
隣地所有者の戸籍謄本等や、住民票などを取得して、
現在の住所や、相続人などを調べることが可能です。
もし、それでも連絡が取れない場合には、
住宅地図などで、近所に同じ名字の人がいないかを調べて、
そのお宅で聞き取り調査を行ったり、
町内会長さんなどに、聞き取り調査を行う方法もあります。
なお、隣地所有者など土地の所有者を調べる方法については、
「土地の所有者を調べる3つの方法」で、
くわしく解説しています。
次に、隣地所有者が、境界確認や、
境界立会い自体を拒んでいる場合の対処法です。
隣地所有者が境界の確認や、
境界立会い自体を拒む理由は様々です。
所有者同士が、過去のいざこざで仲が悪いとか、
挨拶に来た土地家屋調査士が気に入らないなどです。
土地の所有者同士が、仲が悪いのであれば、
その理由などをよく聞いて、
土地家屋調査士が適切に対応することになります。
親切丁寧に、相手の言い分などをよく聞いてあげることで、
境界の確認に応じていただけることもあります。
もし、土地の売却を予定している場合には、将来、
所有者が変わる可能性があるため、変更後の所有者と、
構造物の越境などのトラブルが起きないようにするためにも、
境界の確認などに、協力して欲しい旨を伝えると良いかもしれません。
なお、境界立会いとは何か、境界立会に行くべきかについては、
「境界立会とは?土地の境界立会には行くべき?」で、
くわしく解説しています。
次に、境界点又は境界線について、
隣地所有者と合意できない場合の対処法です。
その場合、筆界特定制度を利用する方法や、
境界確定訴訟を行う方法があります。
次に、隣地所有者が、測量図面付きの境界確認書、
又は隣接境界線証明書への、
署名・押印を拒んでいる場合の対処法です。
この場合は、隣接境界線証明書の形式ではなく、
お互いが署名・押印する・境界確認書の形式で進める方が良いです。
なぜなら、お互いが署名・押印する境界確認書の形式で、
お互いが原本1通を保有することで、将来的に、
隣地所有者が境界確定や分筆登記など必要になった場合、
通常、そのまま使えるため、隣地所有者にとってメリットがあるからです。
隣地所有者の将来的な費用負担が、
少しでも無くなるということなら、
隣地所有者に前向きになっていただける可能性が高くなるからです。
ただし、境界点や境界点について、
隣地所有者が納得していることが前提で、単に、
書面への署名・押印に抵抗がある場合の対処法になります。
以上が、分筆できない土地の対処法となります。
なお、境界確認書とは具体的にどんな書類なのかについては、
「境界確認書とは?土地境界確認書に署名すべき?」で、
くわしく解説しています。
また、土地の分筆費用や費用の相場については、
「土地の分筆費用はいくら?分筆費用の相場」を参照下さい。
分筆登記の流れと分筆にかかる期間については、
「土地の分筆登記の流れと分筆にかかる期間」で、
くわしく解説しています。
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なお、分筆登記など表示に関する登記については、
下記のように、Q&Aで実務を解説している書籍や、
書式と解説がされている書籍も出版されていますので、
合わせてご確認いただければと思います。