この記事の監修者

土地家屋調査士:寺岡 孝幸(てらおか たかゆき)
資格:土地家屋調査士(とちかおくちょうさし)、行政書士。
取扱い分野:土地の境界確定や不動産の表示登記全般。

経歴:開業以来21年間、土地の境界確定など登記関係業務を行っています。
土地家屋調査士のプロフィールはこちら

「お隣の外構工事で、境界標が勝手に撤去された」
「あったはずの境界標が無くなった」
「隣の所有者が勝手に盛土して境界標を埋めてしまった」
「境界標が無くなり、境界線がわからなくなった」

このような理由で、境界標を勝手に撤去されてしまい、
どうすれば良いのかわからない、または、
事前にどのような対策があるのか知っておきたい、
という人も多いのではないでしょうか?

そこでこの記事では、境界標を勝手に撤去されたり無くなれば、
どうすれば良いのかについて、事前の対策も含めて、
土地の境界確定業務を行っている土地家屋調査士が、
くわしく解説いたします。

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この記事では、境界標を勝手に撤去されたり無くなった場合に、
どうすれば良いのかや、事前の対策もわかります。

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境界標を勝手に撤去されたら、どうすれば良い?

たとえば、お隣が、塀や門、庭、植栽、車庫など、
建物の周りの外構工事を行ったことで、
境界標が無くなるというケースがあります。

建物の周りの外構工事の例
(建物の周りの外構工事の例)

また、お隣の土地所有者の勝手な盛土工事や、
道路のセットバックなどの工事が原因で、
境界標がわからなくなったというケースもあります。

盛土工事の例
(盛土工事の例)
道路のセットバックの例
(道路のセットバックの例)

さらに、現地の状況は何も変わらないのに、
境界標だけが、いつの間にか無くなっていたり、
長い年月の経過後に、境界標が不明になるケースもあります。

このようなケースで、境界標が無くなった場合には、
次の3つの原因が考えられます。

  • 境界標は存在しているが、見つけることができない。
  • 施工業者などが、境界標のことを知ってか知らずか撤去した。
  • 境界標を誰かが故意に撤去した。

境界標を誰かが実際に撤去している現場を見ていない限り、
通常、上記3つの内のどれが原因なのか、正確に知る事はできません。

そのため、次の1~5の順番で、
境界標について確認してみると良いでしょう。

1.境界標が埋まっていないか確認する。

まずは、境界標があったはずの場所とその周辺に、
雨風などによる土砂や、何らかの工事による土砂などがあれば、
境界標が埋まっていないかどうかを確認すると良いです。

山裾や道路際の例
(山裾や道路際の例)
盛土工事の例
(盛土工事)

山裾や道路際など、土砂やコケが発生しやすい場所であったり、
単に盛土工事をしただけのような場合には、
土砂やコケをのけてみると境界標が見つかったり、
部分的に土砂を掘ってみると境界標が見つかることもあるからです。

また、境界標があったと思われる箇所が、
位置的にずれていることもありうるので、
そういったことにも注意して、
一旦、じっくり探してみると良いでしょう。

ただし、境界標があったコンクリート構造物等の設置状況が、
以前と全く異なる場合には、土砂等が原因の可能性は低いため、
次の段階に進むことになります。

2.本当に境界標だったのかを確認する。

下図のような、境界という文字又は矢印が刻まれた金属標や、
十字又は矢印入りのコンクリート杭や石杭であれば、
通常、境界標と考えてもおかしなことではありません。

文字と矢印入り金属標
(文字と矢印入り金属標)
矢印入りコンクリート杭
(矢印入りコンクリート杭)

しかし、下図のような単なる金属鋲であったり、
プラスチック杭だった場合、
実際は境界標ではないこともあります。

金属鋲
(金属鋲)
プラスチック杭
(プラスチック杭)

そのため、法務局で下図1のような地積測量図を取得してみて、
境界標として記載されているかどうかや、
下図2のような測量図面付きの境界確認書などが手元にあれば、
それらに境界標として記載されているか確認すると良いです。

地積測量図の例
(図1:地積測量図の例)
境界確認書の例
(図2:境界確認書の例)

もし、地積測量図 又は 境界確認書など境界に関する測量図に、
境界標として記載されていれば、
本当に境界標だったことを確認できるからです。

逆に、地積測量図 又は 境界確認書など、
境界に関する測量図などの資料がない場合、
境界標だったと言える根拠が重要になります。

なぜなら、境界標と思っていたものが、場合によっては、
以前の所有者などが勝手に設置していたり、何かの勘違いで、
境界標とは言えないものだったりすることもありえるからです。

いずれにしましても、無くなった境界標が、
確かに境界標だったことを確認できれば、
次の段階に進むことになります。

なお、地積測量図とは何かと、地積測量図の見方と取得方法は、
地積測量図とは?地積測量図の見方と取得」や、
地積測量図の見方と注意点:XY座標の測量図編」をご確認下さい。

3.施工業者などに境界標のことを確認する。

特に、外構工事 又は 盛土工事、若しくは道路工事をしてから、
境界標が無くなったという場合には、それらの工事の際に、
施工業者などが境界標を撤去した可能性が高いと考えられます。

外構工事の例
(外構工事の例)
盛土工事の例
(盛土工事の例)

ただ、施工業者も、境界標の存在に気付かずに工事をしたり、
金属鋲やプラスチック杭が設置されていても、
それを境界標とは思わず、気にせず工事をした可能性もあります。

そういったことも踏まえた上で、実際に工事をした施工業者に、
境界標について確認してみる方法もあるということです。

もし、施工業者が、境界標について認識していれば、
あとで復元できるように、境界標を測量しているかもしれず、
工事完了後に、忘れてそのまま放置した可能性もあります。

境界標を撤去する前に、基準点測量を含めた測量を行っていて、
その基準点などが2点以上現地に今も残っていれば、
通常、境界標を元の位置に復元することができるからです。

測量
(測量)
基準点
(基準点)

逆に、施工業者が、境界標ということを認識していて、
勝手に撤去してそのまま放置したというのは、
あまり考えづらいと言えます。

なぜなら、外構工事や道路工事などを行う際には、
境界標は非常に大事なものであることを、
通常、施工業者も知っているはずだからです。

いずれにしましても、現地の境界標が無くなってしまうと、
後々、境界問題や越境問題に発展することがあり、
将来、土地の売却や賃貸の時に境界確定でもめる事もあるため、
できるだけ、工事完了後の間もない時期に、確認した方が良いと言えます。

また、隣地所有者と、気軽に確認できる間柄であれば、
境界標が無くなったことについて、
隣地所有者と直接、話をしてみる方法もあります。

隣地所有者と直接話をしてみる
(隣地所有者と直接話をしてみる)

4.境界標の復元が可能なら、境界標を再設置する。

特に、外構工事、又は道路工事などをしてから、
境界標が無くなった場合、境界標の復元が可能であれば、
施工業者と話し合い、境界標を復元してもらう方法があります。

ただし、境界点の復元ができる資料が無いと、
通常、境界標を復元することができません。

また、工事に関係なく、誰かが境界標を勝手に移動させたり、
撤去した場合も、境界点の復元ができる資料がない限り、
通常、境界標の復元ができません。

境界点の復元ができる資料というのは、具体的には、
法務局に提出済みの座標による復元可能な地積測量図や、
座標による復元可能な測量図付きの境界確認書などのことです。

法務局に提出済みの座標による復元可能な地積測量図の例
(法務局に提出済みの座標による復元可能な地積測量図の例)

また、過去に地籍調査事業 又は 区画整理事業を行った土地で、
それらの事業を行った際に測量した基準点の座標値や、
境界点の座標値の資料も、境界点の復元ができる資料と言えます。

地籍調査事業又は区画整理事業を行った際の測量図のイメージ
(地籍調査事業又は区画整理事業を行った際の測量図のイメージ)

それらの資料を市区町村役所の担当課で入手することで、
基準点や境界点の座標値をもとに、
境界標を復元することも可能だからです。

ただし、事業自体が昭和の時代など古く、
三斜測量図面に対して、座標値を付けただけのようなものでは、
境界点の復元ができる資料とは言えないことに注意が必要です。

また、境界標を復元する作業には、復元点の数にもよりますが、
通常、数万円~10万円以上かかるため、
誰がその費用を負担するのかという問題はあります。

境界標を復元する作業のための測量機器
(境界標を復元する作業のための測量機器)

なお、境界標を復元する際には、下図3や4のように、
境界点にマーキング、又は仮杭などで示して、
隣地所有者にも境界の確認をした上で、
境界標を設置するのがベストです。

境界点にマーキングした例
(図3:境界点にマーキングした例)
境界点に仮悔杭を設置した例
(図4:境界点に仮悔杭を設置した例)

ちなみに、境界点に目印ためのマーキングをする際には、
コンクリート地面やアスファルト地面でもペン型で書きやすく、
日が経っても、雨が降っても消えない、
下記のコノエスポットマーカーペンが、非常に便利です。


下記のような筆タイプもあり、
当所では、ペン型タイプと筆タイプを、
場所によって使い分けて愛用しています。

境界標の復元や費用についてさらに詳しくは、
境界標や境界杭の復元方法と復元費用」や、
境界標を復元するには?復元方法と費用の目安」を、
ご確認いただければと思います。

5.境界標の復元が無理な場合、隣地所有者と境界を確認する。

もし、座標による復元可能な地積測量図や境界確認書、
地籍調査事業 又は 区画整理事業の資料などが全く無ければ、
現地に存在していた境界標が頼りだったことになります。

そして、頼りの現地の境界標が勝手に撤去されてしまうと、
境界がどこなのかを、正確に示すことが難しくなります。

そういった場合には、隣地所有者と現地立会いを行い、
境界点の確認及び合意をした上で、
境界標を再設置する方法があります。

隣地所有者と現地で境界立会い
(隣地所有者と現地で境界立会い)

その場合、できれば、お近くの土地家屋調査士に依頼して、
再設置した境界標の測量を行い、境界確認書なども作成し、
お互い署名・押印しておくと、
後々、境界でもめる可能性ができるだけ低くなります。

なお、境界確認書とは具体的にどんな書類なのかについては、
境界確認書とは?土地境界確認書に署名すべき?」を参照下さい。

隣地など土地の所有者の調べ方については、
土地の所有者を調べる3つの方法」で、
くわしく解説しています。

境界標の勝手な撤去や消失への事前対策は?

現地に境界標が設置されているだけで、
その境界点を復元できる測量図が何もない状態ですと、
現地の境界標が勝手に動かされたり、
撤去されると困ることになります。

逆に、現地の境界標を勝手に動かされたり、撤去されても、
境界点の復元可能な測量図面があれば、
費用はかかっても、境界標を復元することが可能になります。

では、どのようなことを事前にしておくと良いのかですが、
境界標が勝手に撤去されたり、動かされる事への事前対策を、
具体的に3つお話しいたします。

1.境界標の写真を撮り、距離も測っておく。

まず、境界標があったことの証明として、
境界標の写真を何枚か撮っておくと良いです。

境界標の写真の例
(境界標の写真の例)

境界標の写真を撮る際の注意点としては、
拡大写真だけでなく、境界標の位置的なものもわかるように、
遠近の両方で写真を撮っておくことです。

境界標の遠景写真の例
(境界標の遠景写真の例)

次に、境界標の設置されていた位置が正確にわかるように、
たとえば、他の境界標や金属鋲、コンクリート壁の角などから、
巻尺などで距離を測った写真や動画を撮っておくと良いでしょう。

他の構造物などからの距離もわかるように撮った境界標の写真
(他の構造物などからの距離もわかるように撮った境界標の写真)

境界標の写真や動画を距離もわかるように撮っておくことで、
勝手に撤去されたり、動かされたとしても、
境界標がそこにあったことの証拠になるからです。

境界標の写真や動画を距離もわかるように撮っておくことは、
費用もほとんどかからず、境界標を復元できる可能性も高まり、
他の人にも境界標の存在を証拠として示すことができるので、
非常に費用対効果のある方法と言えます。

ただし、境界標と思っているものが、
本当に境界標なのかどうかは、別の話になるため、
次の境界確定などの作業をしておく方が安心です。

2.境界確定を行い、境界確認書を作成しておく。

境界確定というのは、隣地所有者全員と現地で立会いを行い、
境界確認で合意した上で、基準点及び各境界点の測量を行い、
座標による復元可能な測量図面付きの境界確認書を作成し、
隣地所有者に署名・押印をいただくことです。

境界確認書の例
(境界確認書の例)

境界確定を行うには、隣地所有者の協力も必要で、
費用的にも結構な金額がかかりますが、
境界争いや境界トラブルを未然に防ぐ効果が期待できます。

さらに、境界標を勝手に撤去されたり、動かされても、
境界確認書の添付測量図面を元にして、
境界点の位置を現地で復元し、境界標の復元も可能になります。

なお、境界確定とは具体的に何をすることで、
費用はいくら位なのかについては、
境界確定とは?境界確定の費用はいくら位?」で、
くわしく解説しています。

境界立会いとは具体的に何をすることなのかについては、
境界立会とは?土地の境界立会には行くべき?」をご確認下さい。

3.地積測量図を法務局に提出しておく。

境界確定を行い、境界確認書を作成しておくだけでも、
境界標の勝手な撤去や、移動などに対する対策になります。

しかし、できれば、座標による復元可能な地積測量図を、
地積更正登記、又は分筆登記などで法務局に提出しておくと、
さらに安心と言えます。

座標による復元可能な地積測量図の例
(座標による復元可能な地積測量図の例)

なぜなら、地積測量図は法務局で永久保存され、
座標による復元能力のある地積測量図であれば、
境界に関する重要な資料としての効果もあるからです。

地積測量図とは何かや、地積測量図の見方と取得については、
地積測量図とは?地積測量図の見方と取得」で、
くわしく解説しています。

境界標を勝手に撤去するのは、どんな罪?

刑法262条の2では、次のように境界損壊罪が定められています。

刑法262条の2(境界損壊)

境界標を損壊し、移動し、若しくは除去し、又はその他の方法により、土地の境界を認識することができないようにした者は、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

引用元: e-Gov法令検索.「刑法」. (参照 2024-11-22)

つまり、刑法では、境界標を壊したり、移動又は撤去したり、
その他の方法で、土地の境界をわからないようにした人は、
5年以下の懲役(2025年6月1日からは拘禁刑)、
又は、50万円以下の罰金になると定められているのです。

以上、「境界標を勝手に撤去されたら、どうすれば良い?」
について解説いたしました。

ただ、境界標が設置されていれば、
境界は確定していると思っていませんか?

実は、かならずしも境界が確定しているとは限りません。

境界標があれば、境界は確定しているのかについては、
境界標があれば、境界は確定してる?実は…」で、
くわしく解説しておりますので、
引き続き、ご確認いただければと思います。

境界標の設置方法と費用負担については、
境界標は勝手に設置して良い?設置方法と費用」をご確認下さい。

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なお、境界標や境界に関する内容については、
下記も合わせてご確認いただければと思います。

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