土地家屋調査士:寺岡 孝幸(てらおか たかゆき)
資格:土地家屋調査士(とちかおくちょうさし)、行政書士。
取扱い分野:土地の境界確定や不動産の表示登記全般。
経歴:開業以来21年間、土地の境界確定など登記関係業務を行っています。
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「境界標を勝手に設置された」
「境界標を勝手に抜き取り、移設された」
「境界標は、誰がどのように設置する?」
「境界標の設置費用は、誰が負担する?」
この様な理由で、境界標は勝手に設置して良いかわからないし、
境界標は、誰がどのように設置して、
設置費用は、誰が負担するものなのかも知っておきたい、
という人も多いのではないでしょうか?
そこでこの記事では、境界標は勝手に設置して良いのかと、
境界標の設置方法と費用負担について、
土地の境界確定業務を行っている土地家屋調査士が、
くわしく解説いたします。
この記事では、境界標は勝手に設置して良いのかどうかと、
具体的な境界標の設置方法や、誰の費用負担なのかがわかります。
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境界標は勝手に設置して良い?
結論から言いますと、境界標は、勝手に設置してはいけません。
なぜなら、民法第223条で、土地の所有者は、
隣地の所有者と共同の費用で、
境界標を設けることができるとされているからです。
民法第二百二十三条
土地の所有者は、隣地の所有者と共同の費用で、
引用元: e-Gov法令検索「民法」. (参照 2024-12-14)
境界標を設けることができる。
そのため、土地の所有者だからと言いましても、
隣地所有者に何の確認もせず、何の了承も得ないで、
自分だけで境界標を勝手に設置してはいけません。
このことは、隣地所有者も同じことで、第三者である他人も、
業務を依頼された土地家屋調査士や測量士なども、
自分だけで境界標を勝手に設置してはいけないということです。
では、実際に境界標を設置する場合、どうすれば良いかですが、
通常、下図1のように土地家屋調査士が間に入り、
土地所有者と隣地所有者の双方と境界の確認を行い、
双方の了承を得た上で、境界標を設置するのが一般的と言えます。
もちろん、土地所有者と隣地所有者のみで境界の確認を行い、
お互い了承した上で、境界標を設置することも可能です。
境界標と言えるのは、どんな物?
境界標とは、具体的にどんな物なのかと言えば、
下図2のような金属標、金属鋲、コンクリート杭、
プラスチック杭、石杭といったものが、
一般的に境界標と呼ばれるものになります。
これらの内、矢印や境界の文字入りの金属標や、
矢印又は十字入りのコンクリート杭や石杭であれば、
通常、境界標と考えられます。
しかし、単なる金属鋲や、プラスチック杭が設置されていても、
境界標ではない可能性もあることに注意が必要です。
なぜなら、下図3のような道路側溝などに設置された金属鋲や、
山林又は畑などの地面に設置されたプラスチック杭の場合、
測量のための基準点や、その他の目的で設置された場合があり、
境界標ではないこともあるからです。
境界標を勝手に設置や移設されたら、どうすれば良い?
下図4のように、境界標を勝手に設置されたことが確認できれば、
隣地所有者として、境界の立会いも、了承もしていないし、
境界標を勝手に設置されては困ることを、
勝手に設置した人に伝える方法があります。
このことは、境界標を勝手に移設された場合も同じです。
境界標を勝手に設置又は移設されたのだから、
その境界標は勝手に撤去しても良いのでは?
と思うかもしれませんが、
それはやめておいた方が良いと言えます。
なぜなら、刑法第262条の2で、
次のように定められているからです。
刑法第二百六十二条の二
境界標を損壊し、移動し、若しくは除去し、
引用元: e-Gov法令検索「刑法」. (参照 2024-12-14)
又はその他の方法により、
土地の境界を認識することができないようにした者は、
五年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
つまり、土地の所有者は、境界標を勝手に設置できませんし、
境界標を勝手に移設したり、
境界標を勝手に撤去することもしてはいけないということです。
また、境界標というのは、土地所有者と隣地所有者が、
共同で設けることができるものであるため、
勝手に設置された境界標については、
隣地所有者に確認したり、相談する方法もあります。
もし、それでも解決できないような場合には、
お近くの土地家屋調査士や弁護士に相談したり、
無料相談などを利用して、アドバイスしてもらう方法もあります。
境界標を勝手に設置したら、罰則はある?
刑法第235条の2では、次のような定めがあります。
刑法第二百三十五条の二
他人の不動産を侵奪した者は、十年以下の拘禁刑に処する。
引用元: e-Gov法令検索「刑法」. (参照 2024-12-14)
このような法令もあるため、法務局に提出済みの地積測量図や、
境界確認書などによって、境界標を復元する際にも、
隣地所有者に確認しておくのがベストと言えます。
ちなみに、境界標を勝手に撤去されたらどうすれば良いかは、
「境界標を勝手に撤去されたらどうすれば良い?」で、
くわしく解説しています
境界標の設置方法
境界標を設置するには、次の1~8の手順で進めるのが一般的です。
- 土地家屋調査士に依頼する。
- 境界に関する資料を取得して、内容を調査する。
- 隣地所有者に、境界立会いのお願いをする。
- 隣地所有者と境界点や境界線の確認をする。
- 隣地所有者と合意の境界点に境界標を設置する。
- 設置した境界標や基準点などの測量をする。
- 境界確認書又は隣接境界線証明書等を作成する。
- 境界確認書などに隣地所有者の署名押印を頂く。
なお、境界点に境界標を設置する1~5までの作業で良いのでは?
と思うかもしれませんが、その境界標が、
隣地所有者と確認して、合意した境界標であることを、
第三者にも証明できるようにするため、通常、1~8まで進めるわけです。
それでは、1つ1つ簡単に解説していきます。
1.土地家屋調査士に依頼する。
境界標を設置する場合、費用はかかりますが、
お近くの土地家屋調査士に依頼するのが一般的です。
なぜなら、境界標を設置するためには、
地積測量図などの資料調査や、隣地所有者と境界確認を行い、
永続性のある境界標を設置して、通常、測量作業も伴うからです。
2.境界に関する資料を取得して、内容を調査する。
まず、法務局で、下図5のような土地の登記情報や公図、
地積測量図などを取得して、内容を調査します。
その際、下図6のような隣地の登記情報や、
下図7のような隣地の地積測量図もすべて取得して、
内容を調査します。
なぜなら、境界標を設置するには、
隣地所有者との境界確認が必要になるため、
隣地所有者が誰なのかを、正確に調べておく必要があるからです。
また、法務局に提出された地積測量図があれば、
作成された年代によっては、
境界に関する重要な資料になりうるからです。
なお、地積測量図とは何か、見方や取得方法については、
「地積測量図とは?地積測量図の見方と取得」で、
くわしく解説しています。
もし、地籍調査事業や区画整理事業が行われた土地であれば、
事業を行った市区町村役所などで、
その時の測量図面などを入手して内容を調査します。
これら法務局又は市区町村役所での資料の取得や、
測量図面に記載された境界点の座標値、辺長、
境界標の種類などの調査作業は、通常、
土地所有者から依頼を受けた土地家屋調査士がすべて行います。
3.隣地所有者に、境界立会いのお願いをする。
隣地の登記情報から、隣地所有者の住所氏名などを調べた上で、
隣地所有者に境界立会いのお願いをします。
隣地所有者への境界立会いのお願いについては、
土地所有者からお願いされても良いですし、
土地家屋調査士からお願いするのが一般的です。
もし、隣が民地ではなく、官地の場合には、
官地を管理している市区町村役所などに、
境界立会い申請書などの書類を提出して、
境界立会いのお願いをすることになります。
なお、境界立会いとは何かについては、
「境界立会とは?土地の境界立会には行くべき?」で、
くわしく解説しています。
もし、隣地など土地の地番がわからない場合は、
「地番の調べ方:土地の地番を調べる5つの方法」をご参照下さい。
また、隣地など土地の所有者の調べ方については、
「土地の所有者を調べる3つの方法」で、
くわしく解説しています。
4.隣地所有者と境界点や境界線の確認をする。
隣地所有者と各境界点および境界線について、
現地で確認を行います。
通常、土地家屋調査士が立会いの進行を務めて、
土地所有者と隣地所有者の境界についての認識が、
お互い一致しているかどうかを確認します。
もし、隣地所有者が遠方にお住まいで、
現地での境界確認が難しい場合には、測量図面などと一緒に、
現地の写真を何枚か郵送でお送りして、
境界の確認を行う場合もあります。
また、座標による地積測量図が法務局に提出されている場合は、
土地家屋調査士が、事前に境界点を復元することもあり、
その場合は、復元した境界点を確認していただくことになります。
境界標や境界杭の復元方法や費用については、
「境界標や境界杭の復元方法と復元費用」をご参照下さい。
5.隣地所有者と合意の境界点に境界標を設置する。
隣地所有者と各境界点について合意できれば、
通常、土地家屋調査士が、下図7のように、
その位置に境界標を設置します。
設置する境界標については、上記の境界標の内で、
設置する場所や位置などから、通常、
土地家屋調査士が適切な境界標を判断して設置します。
もし、設置する境界標についてご指定があれば、
土地家屋調査士にお知らせいただければ、
ご指定の境界標を設置することも可能です。
6.設置した境界標や基準点などの測量をする。
境界標が設置されれば、土地の周辺に基準点を設置して、
将来、境界標の復元ができるように、
土地家屋調査士が、境界標や基準点などの測量を行います。
もちろん、隣地所有者と立会いの結果、合意できた各境界点に、
境界標を設置するだけで済ませることも可能ですが、
あまりお勧めしませんし、一般的ではありません。
なぜなら、現地に境界標を設置するだけでは、
それが境界標なのかどうかを、第三者に証明するのが難しく、
境界標が動いたり、無くなってしまうと、
境界標の復元も難しくなるからです。
さらに、将来、土地の売却時には、
各境界標の測量を行い、境界確認書などを作成して、
隣地所有者に署名押印を頂くのが一般的だからです。
7.境界確認書又は隣接境界線証明書等を作成する。
各境界標や基準点の測量が終われば、下図8のような、
境界確認書又は隣接境界線証明書などの境界確定書類を、
通常、土地家屋調査士が作成します。
もし、隣地が官地の場合には、各市区町村などの役所ごとに、
境界確定書類の様式がありますので、
その様式に従って、境界確定書類を作成することになります。
境界確認書とは何か、具体的にどんな書類なのかについては、
「境界確認書とは?土地境界確認書に署名すべき?」で、
くわしく解説しています。
8.境界確認書などに隣地所有者の署名押印を頂く。
通常、土地家屋調査士又は土地所有者が、
境界確認書や隣接境界線証明書などの境界確定書類に、
隣地所有者の署名・押印を頂きに行きます。
その際、境界立会いで合意した各境界点に、境界標を設置して、
測量した上で作成した書類であることを、
隣地所有者にも説明してから、下図9のように、
隣地所有者の署名・押印をいただきます。
以上1~8の手順が、境界標の設置方法になります。
境界標の設置費用は、誰が負担する?
境界標の設置費用は、民法第224条で、
次のように定められています。
民法第二百二十四条
境界標の設置及び保存の費用は、相隣者が等しい割合で負担する。
引用元: e-Gov法令検索「民法」. (参照 2024-11-23)
ただし、測量の費用は、その土地の広狭に応じて分担する。
つまり、民法では、境界標の設置などの費用については、
土地所有者及び隣地所有者が等しい割合で負担して、
測量の費用は、土地の広さに応じて分担するということです。
しかし、土地の売却のため、境界標を設置する場合には、
例外もありますが、通常、境界立会いや、測量費用も含めて、
土地の売主がすべて負担するのが一般的です。
以上、「境界標は勝手に設置して良い?設置方法と費用」
について解説いたしました。
なお、境界標を勝手に撤去されたら、どうすれば良いかは、
「境界標を勝手に撤去されたらどうすれば良い?」を、
引き続き、ご確認いただければと思います。
また、境界標がもともと現地に設置されていれば、
境界は確定していると思っていませんか?
実は、必ずしも境界が確定しているとは限りません。
境界標が設置されていれば、境界は確定しているのかは、
「境界標があれば、境界は確定してる?実は…」で、
くわしく解説しています。
もし、隣地所有者がどこの誰なのかわからないという場合には、
「土地の所有者を調べる3つの方法」をご確認下さい。
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なお、境界標の設置に関する内容については、
下記も合わせてご確認いただければと思います。
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